掲載費は、もう払った。求人媒体の管理画面を今日も開いて、応募数の欄の「0」を確認して、そっと閉じる。シフト表の空きは埋まらないまま、今いる職員への「もう少しだけお願いします」と、施設長への「まだ応募はありません」という先週と同じ報告だけが続いていく——。
原稿が悪いのか。媒体が悪いのか。それとも、そもそも介護で働きたい人がいないのか。この切り分けができないまま、掲載期限と月末のシフト調整だけが近づいていくのが、いちばん苦しいはずです。
この記事では、求人票を100点満点で採点する当方の診断エンジンが、介護の求人票を採点するときにだけ見ている観点を公開します。そのうえで、外注せずに自分で原稿を直すための8項目のチェックリストを置いていきます。読み終わったとき、少なくとも「どこから手をつけるか」は決まる状態を目指します。
まず切り分ける——「人がいない」だけが原因ではない
最初に、あなたのせいではない部分を切り分けます。
介護の人手不足は構造的な事実です。厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」を見ると、介護サービスの職業の有効求人倍率は、全職業の平均を大きく上回る水準が続いています。募集する側が多く、探す人が少ない市場であること自体は、原稿をどう直しても変わりません。ここまでは前提として受け入れるしかありません。
ただし、ここで思考を止めると打ち手がなくなります。市場全体が厳しくても、同じ地域・同じ媒体・同じ職種という同じ土俵の中で、応募が入る求人と入らない求人は現に分かれます。数少ない求職者が数多くの求人票を見比べて、どれかを選び、どれかを静かに閉じる——その比較の場面で選ばれる側に回れるかどうかは、市場ではなく原稿の問題です。
そして原稿は、媒体選定や待遇改善と違って、あなたが今日、管理画面から自分の権限で変えられる唯一の変数です。だからこの記事は原稿の話だけをします。
介護の求職者が求人票で確かめたい、3つの不安
当方の診断エンジンは、求人票を「法令・表現リスク(20点)」「必須情報の網羅(25点)」「具体性・読みやすさ(15点)」「訴求力(40点)」の4カテゴリで採点します。最大の40点を占める訴求力の内訳は「ターゲット訴求の明確さ」「他社との差別化」「読み手の不安への回答」「文章の誠実さと読後感」の4観点・各10点で、それぞれ7点以上で合格、4〜6点は要注意、4点未満は要改善と判定します。この配点はエンジンの実装そのままです。
そして訴求力の採点には業種別の観点を組み込んでいて、介護の求人票では、とくに次の3つの不安に原稿が事実で答えているかを見ます。
第一に、人間関係。介護は職員どうし・利用者・家族と、一日じゅう人と関わり続ける仕事です。介護分野の公的な調査でも、離職の理由として職場の人間関係は繰り返し上位に挙がります(公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」)。いまの職場の人間関係に疲れて求人票を開いた人が、次の職場でまず同じ点を確かめたくなるのは自然なことです。
第二に、夜勤の負担。月に何回夜勤があるのか。夜勤のとき、フロアに職員は何人いるのか。仮眠は取れるのか。——夜勤の実態は、介護職が働き続けられるかどうかを左右する条件です。あなたの原稿では、「夜勤あり」の4文字で済ませてしまっていないでしょうか。
第三に、身体への負荷。移乗や入浴介助で腰を痛めないか。リフトなどの福祉機器はあるのか。利用者の介護度はどれくらいか。——身体を壊したら働き続けられない仕事だからこそ、読み手は自分の身体が持つかどうかを原稿から読み取ろうとします。
裏を返すと、この3つに答えていない求人票は、給与や休日の数字がきちんと書いてあっても、読み手の「いちばん知りたいこと」を素通りしています。「アットホームな職場です」のような決まり文句は、どの事業所の原稿にも書けてしまうぶん、この3つの不安のどれにも答えません。不安が放置された求人票は、見比べられた末に黙って閉じられます。
自分で直すためのチェックリスト——8項目
上の3つの不安をふまえた、外注せずに自分で直すためのチェックリストです。自分で直せる方は、このまま使ってください。囲い込むつもりはありません。全部を一度に直す必要はなく、着手は1(誰に書くか)と8(法令まわり)から——1は原稿全体の書き直しの軸になり、8は放置のリスクがいちばん大きいからです。残りは2→3→4の順で、3つの不安に答える部分から埋めていきます。
- 採りたい1人を先に決めたか。「子育て中で日勤のみ希望の介護職」「特養で3年働き、認知症ケアを深めたい人」——1人に絞り、その1人へ手紙を書くつもりで書く。誰でも歓迎の書き方は、結局誰の心にも留まりません。
- 夜勤の実態を数字で書いたか。月平均の夜勤回数、夜勤時の職員体制(何人夜勤か)、仮眠時間の有無、夜勤手当の1回あたりの額。「夜勤あり」の4文字で済ませている原稿との差は、この具体性だけで生まれます。
- 身体への負荷に、事実で答えたか。リフト・スライディングシートなどの福祉機器の有無、入浴介助の方式、利用者の平均介護度。「身体に優しい職場」という印象の言葉ではなく、確かめられる事実で書きます。
- 人間関係を、数えられる事実で示したか。「雰囲気の良さ」は原稿では証明できません。職員数と年齢構成、勤続年数の傾向、職場見学をいつでも受けている——のような、確かめられる事実と確かめる手段(見学歓迎の一文)に置き換えます。
- 給与の内訳を分解したか。基本給・処遇改善関係の手当・夜勤手当・資格手当がそれぞれいくらか。合計額だけの表記は「よく見せているのでは」という疑いを生みます。資格取得支援があるなら、制度名だけでなく費用負担の中身まで書きます。
- 基本の項目が全部あるか。仕事の中身・給与額・働く場所・時間とシフトの組み方・休み・雇用形態・保険と福利厚生・応募の仕方。媒体の応募ボタンがあるからと「応募の仕方」を省くと、「話を聞くだけの電話も歓迎」のような負担の軽い入口も一緒に失われます。
- 働く1日の流れが目に浮かぶか。日勤なら朝の申し送りから退勤まで、夜勤なら入りから明けまで。業務の箇条書きだけでなく、時系列で1段落。読んだ人が自分の姿をそこに置けるかどうかです。
- 性別・年齢まわりの表現が紛れていないか。募集・採用で年齢制限を設けることは労働施策総合推進法(旧雇用対策法)により原則禁止で、例外にあたる場合の条件は厚生労働省の指針にまとまっています。性別で応募者を絞ったり一方を優遇したりする書き方は、男女雇用機会均等法に反します。求人票は日常の言葉で書かれるからこそ、性別を前提にした表現が紛れ込んでいないか、確認する価値があります。確認の手順は2つ。
- ① 厚生労働省が公開している、年齢制限の禁止ルールと男女均等な採用選考の各ガイドに目を通す
- ② 使っている求人媒体の入稿ガイドにある禁止表現の一覧と、自分の原稿を突き合わせる
直したかどうかを、数字で確かめたいときは
このチェックリストで直せるなら、それがいちばん早くて安い方法です。
ただ、「直したつもり」と「直った」の間には距離があります。自分の事業所の求人票は、書いた本人には欠陥が見えにくいからです。毎日その職場で働いているあなたにとっての「当たり前」——夜勤の人員体制も、機器の充実も、職員の定着も——は、書かれていなければ、読み手には存在しないのと同じです。
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出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
- 公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査」(各年度公表)
- 介護の求人票で見る3つの不安: 当方診断エンジンの介護向け業種別ルーブリック(訴求力40点の採点観点)
本記事の採点カテゴリと配点は、当方診断エンジンの実装をそのまま記載したものです。法令にふれた記述は表現リスクの解説であって、法的なアドバイスではありません。