掲載費は、もう払った。媒体の管理画面を今日も開いて、応募数の欄に並ぶ「0」を確認して、そっと閉じる。社長には「まだ応募はありません」と、先週と同じ報告をするしかない。
原稿が悪いのか。媒体の選び方が悪いのか。それとも、そもそも人がいないのか。——この切り分けができないまま掲載期限だけが近づいていくのが、いちばん苦しいはずです。
この記事では、当方が採点した建設業の実在求人票2本の実測データをもとに、「同じ土俵で応募が来ない側に回るリスクが高い求人票には、何が欠けているのか」を数字で示します。そのうえで、外注せずに自分で直すためのチェックリストを置いていきます。読み終わったとき、少なくとも「どこから手をつけるか」は決まる状態を目指します。
まず切り分ける——「人がいない」だけが原因ではない
最初に、あなたのせいではない部分を切り分けます。
建設業の人手不足は構造的な事実です。厚生労働省の「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」を見ると、建設関係の職種の有効求人倍率は、全職業の平均を大きく上回る水準が続いています。さらに、産業ごとの人の出入りを追う同省の「雇用動向調査」からも、建設業は他産業と比べて入職の動きが細く、転職市場から人が流れ込みにくい産業であることがうかがえます。募集側が多く、探す人が少なく、他産業からの流入も細い市場——ここまでは前提として受け入れるしかありません。
ただし、ここで思考を止めると打ち手がなくなります。市場全体が厳しくても、媒体も地域も職種も同じ土俵の中で、応募が入る求人と入らない求人は現に分かれます。数少ない求職者が数多くの求人票を見比べて、どれかを選び、どれかを静かに閉じる——その比較の場面で選ばれる側に回れるかどうかは、市場ではなく原稿の問題です。
そして原稿は、媒体選定や待遇改善と違って、あなたが今日、管理画面から自分の権限で変えられる唯一の変数です。だからこの記事は原稿の話だけをします。
応募が来ない側に回る求人票——実測2本の内訳
当方の診断エンジンは、求人票を「法令・表現リスク(20点)」「必須情報の網羅(25点)」「具体性・読みやすさ(15点)」「訴求力(40点)」の4カテゴリ・100点満点で採点します。2026年7月に、実在する建設業の求人票2本を診断しました。社名等が特定されない形に言い換えて紹介します。なお、この2本の実際の応募数のデータは当方になく、言えるのは「比較の場面で選ばれにくい側に回るリスクの高さ」までです。
結果は70点と72点。点数としては平均圏ながら、同じ土俵に並ぶ他社の求人と見比べられたときに、選ばれにくい側へ落ちる危うさがある——という判定でした。
意外だったのは、点数の内訳です。2本とも法令面はおおむね良好(ただし1本には、手当を出す条件を特定の年齢で区切っていると読める要確認の指摘が1件ありました。詳細は伏せます——この論点はチェックリストの8番で扱います)。給与・勤務時間・休日といった基本の情報も、ほぼ埋まっていました。文字数も十分で、数字も入っていて、箇条書きで整理もされている。一見すると「ちゃんと書けている」求人票です。
点数を沈めていたのは、2本とも同じカテゴリ——訴求力でした。40点満点に対して15点と16点。具体的には、次の3つが共通していました。
第一に、「採りたい1人」が決まっていない。2本とも、経験の有無を問わず年齢層も広く歓迎する書き方で、間口を広げれば広げるほど、読んだ人の誰にとっても「自分のことではない」求人になっていました。この項目は2本とも10点満点中3点です。
第二に、その会社でしか書けない、確かめられる事実がない。どの建設会社の原稿に貼り付けても通用してしまう定型句が目立ち、創業からの年数、元請け工事の割合、持っている機材、資格の取得を後押しした実績の数といった、その会社にだけある検証可能な事実が、2本とも乏しいままでした。ゼロではないものの、差別化の柱になる量ではありません。
第三に、読む人の不安が放置されている。建設業の求人を前に二の足を踏む理由——体力的にきついのではないか、休めないのではないか、危なくないか——への答えをあらかじめ書いておく記述が、2本ともありませんでした。残業時間や休日が数字で書いてある点は良かったのですが、そこで止まっていた。不安が放置された求人票は、見比べられた末に黙って閉じられます。
もうひとつ、細かいけれど痛い共通点がありました。2本とも、応募の仕方や連絡先にあたる情報がどこにもなかったのです。媒体の応募ボタンがあるから省いたのだと思いますが、「話を聞くだけの電話も歓迎」といった負担の軽い入口が書かれているかどうかは、迷っている人の背中を押せるかを左右します。
自分で直すためのチェックリスト——8項目
上の実測をふまえて、外注せずに直すためのチェックリストです。自分で直せる方は、このまま使ってください。囲い込むつもりはありません。
- 採りたい1人を先に決めたか。「一人親方から社員に戻りたい30代の職人」「土木の現場で5年働き、施工管理に進みたい人」——1人に絞り、その1人へ手紙を書くつもりで書く。誰でも歓迎の書き方は、結局誰の心にも留まりません。
- 会社でしか書けない事実を3つ発掘したか。創業からの年数、社員が平均で何年続いているか、元請け工事の割合、持っている重機、直近1年で資格を取った社員の数。印象を語る言葉ではなく、数えられる事実で差をつけます。
- 二の足を踏ませる不安に、正面から答える段落があるか。きつさ・危険・休日の実態について、安全講習をどれくらいの頻度で行っているか、50代の社員が何人働いているか、といった事実を先手を打って示す。
- 決まり文句を、確かめられる事実に変えたか。「働きやすい環境」「風通しのいい会社」のような言葉は、隣に並ぶ他社の原稿にも同じ表現があるぶん読み飛ばされ、かえって疑われます。工具・装備の会社負担額や直行直帰の可否のような、確かめられる記述にする。
- 基本の項目が全部あるか。仕事の中身・給与額・働く場所・時間・休み・雇用形態・保険と福利厚生・応募の仕方。実測2本が共通して落としていたのは、最後の「応募の仕方」でした。
- 応募のハードルを下げる一文があるか。「履歴書なしで面談可」「話を聞くだけの電話も歓迎」。応募フォームの手前で迷っている人への選択肢です。
- 働く1日の流れが目に浮かぶか。業務の箇条書きだけでなく、朝の集合から夕方までの流れを順に1段落。読んだ人が自分の姿をそこに置けるかどうかです。
- 性別・年齢まわりの表現が紛れていないか。募集・採用で年齢制限を設けることは労働施策総合推進法(旧雇用対策法)により原則禁止で、例外にあたる場合の条件は厚生労働省の指針にまとまっています。性別で応募者を絞ったり一方を優遇したりする書き方は、男女雇用機会均等法に反します。採用条件だけでなく、手当を出す条件などを特定の年齢で線引きする記述も、読み手に「自分は対象外だ」と受け取られて、応募の間口を自分で狭くしてしまいます。確認の手順は2つ。
- ① 厚生労働省が公開している、年齢制限の禁止ルールと男女均等な採用選考の各ガイドに目を通す
- ② 使っている求人媒体の入稿ガイドにある禁止表現の一覧と、自分の原稿を突き合わせる
直したかどうかを、数字で確かめたいときは
このチェックリストで直せるなら、それがいちばん早くて安い方法です。
ただ、「直したつもり」と「直った」の間には距離があります。自分の会社の求人票は、書いた本人には欠陥が見えにくいからです。今回の実測2本も、書いた方は「ちゃんと書けている」と思っていたはずです——実際、基本の情報はほぼ埋まっていたのですから。
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出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/114-1.html
- 厚生労働省「雇用動向調査」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/9-23-1.html
- 求人票の採点データ: 当方診断エンジンによる実測(2026年7月・建設業の実在求人票2本。社名等が特定されない形に言い換えて掲載)
本記事に載せた点数は、求人票の本文テキストを自動採点した実測値です。法令にふれた記述は表現リスクの解説であって、法的なアドバイスではありません。